十一面観自在菩薩密言念誦儀軌経に依る珍しい四臂の十一面観音像で、右第一手は施無畏印、右第二手に念珠、左の第一手に蓮華、第二手に水瓶を執る形を表す。白山権現の本地仏として境外の白山社に祀られていた。
鎌倉金銅仏中でも大作の部類にはいる本像は、両脚部を含んで前後の合せ型によって一鋳とし、仏面及び髻と頭上面、二臂一鋳の各手を別につくる。金厚はきわめて薄く均一であり、鋳技のすぐれた作例として注目に値しよう。指先まで細く長い手や形式的な浅い衣文表現など総体に簡素な像容は、白山信仰の金銅仏に、まま見受けられるところであるが、四臂の伸びやかな構成や眉を寄せて遠くを見通すような眼を刻む清楚な顔立ち、張りのある肉身のモデリングには特色がある。十三世紀前半にさかのぼる制作と考えられる。