『類聚名義抄』は平安時代後期に編纂された部首別の漢字辞書である。当初法相宗の学僧により編纂され、その後平安時代末期に真言崇の学僧により大幅に改訂が加えられたが、その改編後の伝本も観智院本、高山寺本、蓮成院本、西念寺本などの諸系統に分かれている。
鎮国守国神社所蔵の『三宝類聚名義抄』は、南都興福寺の蓮成院に伝来した本で、もとは六帖であったと推定されるが、現在はその四帖分弱を存し、三帖に改装している。体裁は、もと粘葉装【でつちようそう】で、現状は折り目を切断して補紙を加えて糸で綴じ、後補の緞子表紙の題簽にそれぞれ「名義抄」と外題がある。本文の料紙は楮紙(打紙)で、半葉七行、四段に押界を施し、帖首に部首の目録を掲げ、本文はその部首によって文字を掲げ、二行ないし三行の割注で、字音、和訓、語意、熟語などを記している。文中まま本文と同筆で墨校異、朱声点などが付されている。奥書はなく、文中の仮名には一部古体のものもみられるが、書風などより南北朝時代の書写になるものと考えられる。現存部分の構成は、第一帖は「仏上」で、帖首の目録以下ほぼ帖末までを存するが、途中に約一六丁の欠失がある。第二帖は「法上」で、目録以下前半部分を存し、帖首には旧包紙が付され、左に「三宝類聚名義抄中一」、右下に「蓮成院」と墨書があり、本帖が蓮成院に伝来したことを明らかにしている。第三帖は「僧上」と「僧下」を合綴するが、各帖とも首尾を欠いている。
『類聚名義抄』の現存諸本のうち、改編以前の形を伝える写本は、宮内庁書陵部蔵の零本があるのみで、改編本も完存するのは観智院本(国宝、天理大学所蔵)のみである。この蓮成院本は、観智院本と比べて部首の配列、和訓等の注記に異同があり、平安・鎌倉時代の国語研究上に貴重である。なお、本帖は桑名藩主松平家に伝わり、松平定信を祀る鎮国守国神社に納められたものである。