恵心僧都源信の撰になる『往生要集』の平安時代後期の写本である。
粘葉装三帖からなり、表紙は本文料紙と共紙の原表紙で、外題はない。料紙は楮交り斐紙に押界を施して用い、各帖とも「往生要集巻上盡第四門半天台首楞嚴院沙門源信撰」(上帖)の如く首題があり、半葉七行、一行一七~二〇字に端正な書風で全帖一筆に書写しており、下帖の末には「永観二年」云々の源信撰述記を書写している。文中まれに後筆の書き入れ、擦消訂正があるほか、全帖にわたって訓読を示す朱書の仮名、ヲコト点(宝幢院点)および墨書の仮名が付されている。書写等の奥書はないが、書風等よりみて十一世紀後半頃の書写になるものと認められ、文中の朱書の訓点も本文とほぼ同時期のもので、ヲコト点に宝幢院点を用いているところから比叡山の僧侶の手になるものと認められる。
本帖は寺伝では最明寺開山の浄蓮坊源延の所持本と伝えて秘蔵され、近時その存在が紹介されたもので、『往生要集』の現存諸本中で完存するものとしては後掲の青蓮院本に先行する最古本と認められ『往生要集』研究上に貴重である。また本文中に加えられた訓点は、平安時代における『往生要集』の読み方を伝えて、国語学研究上にも貴重である。