現在六十余点知られる南蛮人の来航を描く屏風絵は、景観内容によって三種類に分類され、第一類型は北村家本(重要文化財)、第二類型は神戸市立博物館蔵の狩野内膳本(重要文化財)に代表される。
本図は、右隻に日本の港に入港する南蛮船と荷揚げの様子を、左隻には南蛮船を伴わない異国の南蛮風俗を描く、第三の類型に属する。同類型は三種の中で最も作品数が少ないが、本図はなかで最もできばえが良く、代表作例といえる。
第三類型の作品では、北村家本・狩野内膳本に細かく描かれたキリスト教館における礼拝風景あるいは屋根の十字架といったキリスト教を示す要素が控えめとなっており、本図でも右隻の建築がキリスト教館かどうかは判然としない表現である。他方の左隻は異国をあらわす際に用いられてきた既存の図様を動員して色彩豊かに組み立てており、異国の建築を背景に、会議をするかのような南蛮人、マントをまとった裸足の修道士、異国風俗の女性、蹄鉄を打った馬に乗る様子等、多彩な南蛮風俗が展開する。
本図と図様が近似する作例に、三井文庫本、東京国立博物館本、神戸市立博物館の別本、兵庫県個人蔵本等があり、この図様の系統が継承されていったことを示していよう。
南蛮人渡来図には落款印章のある作品はほとんどなく、本図もまた無款である。しかし、本図の場合は一見して狩野派の画家の筆になることはあきらかで、樹木や岩の形態に狩野山楽(一五五九-一六三五)の画風の特徴をもつことから、山楽の作と考えられている。狩野派正系の手になる作例は上記の狩野内膳本を除けば極めて少なく、貴重である。