檜材、寄木造、彫眼の十一面四十二臂千手観音立像で、頭部は前後の二材、体部は正・背及び両側面の四材からなる。保存は良く、頭上面・脇手等が当初のままに伝わっているのは稀らしい。
膝下の衣文は翻波風のものを混え、やや面長な顔に切れの長い僅かな伏眼、力強い厚目の唇を刻み、頬の肉付けをゆったりとった面貌には平安古像にも似た威厳が感じられる。こうした古様を写しているのは本像の一つの特色であるが、華やかに垂下する髻、膝近くまで折り返した裳、曲線を交えた複雑な構成を示す衣文の表現等、体部の箱式の構造と考えあわせると製作時期は十三世紀中頃に下るであろう。当代の復古的一面を示す好例である。