東草野は,滋賀県の北東部に位置する伊吹(いぶき)山地の西麓に所在し,姉川上流の谷部に形成された山村である。峠を介し,隣接する岐阜県旧坂内村や滋賀県旧浅井町等との流通・往来が古くから盛んであったことは,例えば県境を越えて行われる「廻(まわ)り仏(ぼとけ)」など習俗に表れている。
当地は西日本屈指の豪雪地であり,冬季には集落内でも約3mに及ぶ積雪となる。そのため,民家はカイダレと呼ばれる長い庇(ひさし)を備えており,軒下に積雪時も使用可能な作業場を確保するほか,敷地内に設えられたイケ・カワト等は消雪に用いられるなど,豪雪に対応した生活の在り方が認められる。当地の基本的な生業は農業であるが,甲津原(こうづはら)の麻織,曲谷(まがたに)の石臼,甲賀(こうか)の竹刀など,冬季を中心とした特徴的な副業が集落ごとに発達した。また,東草野の最南部に位置する吉槻(よしつき)は南北及び東西の交通路の結節点であり,行政施設・商店等が集積する中心地として機能してきた。
このように,東草野の山村景観は,滋賀県北東部の姉川上流において,峠を介した流通・往来によって発達した景観地で,カイダレなど独特の設備を備えた民家形態や,集落ごとに発達した副業など,豪雪に対応した生活・生業によって形成された文化的景観である。