独逸の婦人
概要
49
独逸の婦人
German 1ady
1912(明治45)年
テンペラ、麻布 44.6×29cm
tempera on canvas
この絵は、石井柏亭が1910年から12年にかけての第1回外遊のおりに描いたテンペラ画である。柏亭はこの時多くの優れた人物や風景の水彩画を制作したが、テンペラという忘れられ軽視されがちだったこの古典的画材に興味をもち、あえて試みた。水溶性であるが油彩画風の効果をもつ特性を生かし、日本画の習練を経たデッサン家としての筆さばきで、簡潔な画面処理がなされている。そして一見無技巧に見える素気ないほど淡々とした画境が示されている。石井柏亭は、終始一貫して平明堅実な自然主義的リアリズムの道をたどり、作風はつねに静かで中庸を脱せず、きわめて常識的な日本臭の強い洋画家であった。また柏亭は、おびただしい量の評論や美術教育に関する著述を残し、詩や俳諧の分野でも一家をなしたが、その業績のなかにも理性的で、都会的な常識人の感性と知性が光っている。「天は小生に常識の分量を多く与えて呉れた」と自身も述べている。