辻が花染小袖
つじがはなぞめこそで
概要
辻が花染の道服および小袖はともに桃山時代のもので、徳川家康の所有と伝えるものである。前者は石見銀山開発に功のあった大久保長安(石見守)が家康から拝領したといい、後者は家康の歿後、いわゆる駿河御譲物の一部として尾張徳川家へ伝えられたものである。
丁字文道服は綿入れ仕立で、黄の練緯地【ねりぬきぢ】に絞り染めで鋸歯文【きよしもん】を赤で三段に入れ、その中に白抜きの花菱亀甲【はなびしきつこう】と丸に桔梗文【ききようもん】を交互に萠黄で表わし、黄地のところには紫、白、浅黄の三色で大丁字文を散らした色彩あざやかなもので、色の調和もよく、図柄は一見単調に見えて大らかさがある。
黎明会の小袖はいずれも綿入れ仕立であるが、槍梅葵紋散小袖は紺の練緯地に槍梅文を白抜きにしている。地紙形散葵紋小袖は浅葱【あさぎ】の練緯地に輪郭を白抜きに絞った地紙形を散らし、楓文散葵紋小袖は同じく浅葱地に紺で楓の葉を重ねた文様を散らしている。以上の小袖には葵紋が配されていて、萠黄、浅黄、白抜きなどで表わして輪郭と蕊を墨描きにしている。雪持笹文散小袖は葵紋をつけないが、浅葱地に雪持笹を散らし、雪は白抜き、笹葉を萠黄、鶸【ひわ】色、紺、白抜きで表わし、それぞれ輪郭を墨描きしたものである。これらの小袖は丁字文道服のように華麗なものではないが、地の色合いや染めの文様に深く、渋く、そして粋な調子が見られ所用者の人柄がうかがえるものといえよう。