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鳥海山獅子ヶ鼻湿原植物群落及び新山溶岩流末端崖と湧水群

ちょうかいさんししがはなしつげんしょくぶつぐんらくおよびしんざんようがんりゅうまったんがいとゆうすいぐん

概要

鳥海山獅子ヶ鼻湿原植物群落及び新山溶岩流末端崖と湧水群

ちょうかいさんししがはなしつげんしょくぶつぐんらくおよびしんざんようがんりゅうまったんがいとゆうすいぐん

天然記念物 / 東北 / 秋田県

秋田県

にかほ市

指定年月日:20010129
管理団体名:にかほ市(平15・8・7)

史跡名勝天然記念物

 鳥海火山は秋田・山形県境にまたがる日本海に面した活火山である。標高は2,237mで岩質は安山岩を主体とする。鳥海火山の噴火活動は,55万年前に遡る。今から約2600年前,鳥海火山北麓が大崩壊して東鳥海馬蹄形カルデラが形成され,象潟岩砕なだれが発生した。この岩砕なだれは,当時の日本海にまで流れ込み,現在天然記念物に指定されている「象潟」を形成した。
 この象潟岩砕なだれは,堆積後二次的に崩壊し泥流を発生した。この泥流堆積物上面が,後に獅子ヶ鼻湿原が成立する緩斜面である。その後,泥流堆積物上には,鳥海火山から何回かの溶岩流が流下した。これが新山溶岩流である。鳥海火山北麓の標高約550mの新山溶岩流の末端では,このカルデラを集水域として降水が浸透し,溶岩流下部の破砕された部分を通って,出壺(でつぼ)と呼ばれる湧水池から湧出溢流している。
 獅子ヶ鼻湿原植物群落は,出壺から出る豊富な湧水により涵養されて成立した湿地帯と,周囲に成立しているブナ林により構成されている。湿地帯は,大量の湧水のため高木林はあまり発達せず,低木林,ミズゴケ湿原,流水路等により構成されている。
 流水路・ミズゴケ湿原周辺には多量の蘚苔類がクッション状に密生し,独特の景観を形成している。特に,流水中には苔類の群落が密に形成され,未分解の植物体が厚く堆積している。これらの蘚苔類には,苔類のハンデルソロイゴケやヒラウロコゴケなどの遠隔地に飛び離れて生育している隔離分布種,苔類のイイデホラゴケモドキ,ミズホラゴケモドキ,ヤマトヤハズゴケや蘚類のシモフリゴケ,カギハイゴケのような通常高山にのみ分布している種等の希産種が大量に生育しており,学術的に非常に貴重な植物群落である。
 このような湿地帯は北アルプス立山や八ヶ岳等でも見られるものの,本地域ほど大規模なものは知られていない。本地域の湧水は,低温で変動が少ない水温(7.2〜7.3℃),強い酸性(pH4.5〜4.6),高いアルミニウムイオン濃度等の特異な性質を持つ。湧水地点の規模も非常に大きい。このような湧水の水質等が,特異な湿地帯の種を維持させているものと考えられている。
 湿地帯の周囲にはブナ林が発達し,通常あまり見られない,顕著な鋸歯葉を持つブナがかなりの割合で見られ,学術的にも価値が高い。なお,この地域はかつて炭焼きのために雪上伐採が繰り返され,2〜3mの高さで多数の萌芽枝を出し,分枝部分がこぶ状に盛り上がった奇観を呈している「あがりこ」と呼ばれる“奇形”ブナが多く見られる。
 この地域は東北地方の代表的な活火山である鳥海火山の溶岩流末端部分が典型的に発達している。この溶岩流末端下部からの大量の湧水に涵養され,日本では他に例を見ない規模と独特の植物相を持った湿地帯,それらの周囲にあるブナ林を含む指定予定地域は,学術上きわめて価値が高い。よって,天然記念物として指定し,一体として保護を図ろうとするものである。

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