大般若経 巻第二十三(和銅五年長屋王願経)
だいはんにゃきょう
概要
奥書にある和銅5年(712)の紀年により「和銅経」と呼ばれる本経は、当時従三位式部卿の位にあった長屋王(天武天皇第八皇子高市皇子の長子)が従兄文武天皇の崩御を悼んで発願し、その北宮(妃吉備内親王の邸)に写経生を集めて書写したもので、書写年次の明らかなわが国最古の『大般若波羅蜜多経』(以下『大般若経』と略称)として知られる。当初の600巻のうち滋賀・天平寺に142巻、見性庵に43巻、さらに常明寺に27巻が伝存し、このほか、民間に散逸したものが12、3巻あり、本館蔵のものもその一巻で、いずれもその装幀が巻子本から折本に改められている。
料紙は黄麻紙を用い、界線を施さぬところに特徴が見出される。小ぶりながら力強い、謹厳な書風は隋から唐代初期のそれに倣う一方、経文書写ののち加えられた奥書は、これより古い六朝風の書風を示しており、経文は六、七人の写経生が書写し、願文は二人の筆跡になることが指摘されている。巻末に旧蔵者である中国楊守敬の蔵印が捺されている。
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