華厳十重唯識瑺鑑記 巻第四 凝然筆
けごんじゅうじゅうゆいしきじょうかんき かんだい4 ぎょうねんひつ
概要
凝然(1240~1321)は、鎌倉時代の東大寺学僧である。戒壇院円照に師事した凝然は博学精記で知られ、華厳・律・真言・浄土・禅などを修め、生涯に千二百余部・千二百余巻もの著作をのこしたと言われる。鎌倉時代、南都では教学が復興し、多くの学僧が活躍していた。その中でも凝然の存在は大きく、日本における華厳教学の大成者と言われる。十重唯識を説く本書は凝然53歳の時のもので、7巻からなるとされる。唯識とは唯心とほぼ同義であり、法相・華厳それぞれにおいて重要な思想であった。本書は『華厳経探玄記』を引用・注解する形式で、唯識に関する経論を余すところなく引用する。この書において凝然は、華厳学者であるとともに法相唯識の学にきわめて造詣が深いことを遺憾なくあらわしている。なお、本巻は消息(手紙)の紙背を利用しており、消息の宛所として見える「戒壇院御房」は凝然のことであろう。凝然や戒壇院の活動を知る上でも、貴重な史料である。