逗子五景
ずしごけい
概要
三浦半島の逗子を流れる田越川(たごえがわ)は、相模湾にそそいでいる。1893年、フランス留学から帰国した黒田は1898年1月から約半年ばかり逗子に滞在し、この田越川河口付近の風景を描いた。この5点は、いずれも板に直接油絵で薄く描いたスケッチで、淡く煙る河口の眺めが素早い筆致でとらえられている。とくに富士見橋を臨む第4景は、川面に映る外光の輝きが紫や青、ピンクなどを使って色彩豊かに描かれている。ちなみに橋の向こうに見えるのは、当時、小説家の徳富蘆花が逗留していた旅宿柳屋と思われる。逗子は徳富蘆花の小説『不如帰』の舞台でもあり、黒田は蘆花の依頼をうけて小説の口絵を描いている。なお、この作品は白馬会第3回展には《河辺》、第10回展には《逗子の河辺(5図)》として出品されており、発表時からすでに現在のように小品5点が連作としてひとつの額に入れられていたと推察される。
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神奈川県立近代美術館