赤と黒
あかとくろ
概要
黒地に赤という鮮やかな対比色で描かれた四画、丸、三角という単純な形態が、画面中央から目に飛び込んできます。わたしたちはこの絵を前にすると、まるでそのかたちが生まれ出てくる瞬間に立ち会っているような気がします。画面の両側に左右相称に描かれている黒のシルエットと背景の灰色と白の輝きもその印象を強めています。
菅井汲は、ちょうどこの作品を制作した頃を転機に、明快に造形化された、単純で、しかも力強い抽象表現を追及するようになります。画家は、この作品で、自分自身の誕生に立ち会ったのです。「1964年の或る日、アトリエの一隅に描きかけの大作があり、その真中にもう一つ細長いカンヴァスがたてかけてあった。それにふと気付いたとき、これだ、と悟った*。」無関係な画像が重なって生じる思いがけない緊張感。知的な絵画の新たな可能性が発見された瞬間でした。
*(小倉忠夫「菅井汲〈作家研究〉」『版画研究』、1971年)
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神奈川県立近代美術館