普賢菩薩像
ふげんぼさつぞう
概要
普賢菩薩は、普く一切の処に赴き、仏の衆生済度を助けるとされる。特に『法華経』の「普賢菩薩勧発品」には、六牙の白象に乗って法華の修行者の許に現われ、守護すると説かれており、それに基く絵画がよく行われた。わが国では、法隆寺金堂壁画に早い例が見られるが、『法華経』信仰の盛行した平安後期から鎌倉時代にかけて名品の多い中で、本図は比較的小品ながら、情感に富む作風に特色を示すものである。
菩薩の白い肉身には淡い朱の暈を施して、暖かく柔らかい質感を生む。輪郭も淡い墨の滑らかな曲線で形作られ、ふくよかな肉付きを表している。着衣は各部を穏やかな色調で塗り分けた上に、細い截金の曲線で衣褶を軽やかに表し、さらに金銀の切箔を連ねた瓔珞(ようらく)を全身にまつらわせて、像に輝きを与えると同時に輪郭を柔らげる。銀を主に金を混えた切箔と截金による文様で埋めた光背や、彩色の花で形作った天蓋から垂れる銀切箔の瓔珞も、像を優しい雰囲気で包んでいる。
奈良国立博物館の名宝─一世紀の軌跡. 奈良国立博物館, 1997, p.315, no.165.