土
つち
概要
東京都出身の桂ゆき(1913―1991)は、戦前から先鋭的な作品を発表し、前衛画家として活躍します。自由な表現への志向を自覚し、自分の感覚の表現としてたどり着いた手法が、布や紙を画面に直接貼り付けるコラージュ技法でした。
この作品では、兎や蛾、木の根や人といった数々のモティーフが、現実世界での比率や脈絡を無視して不統一に並びます。一見すると、コラージュ作品のようですが、すべて描画によるもの。筆と絵の具で同様の効果を生む、機知やユーモアも感じられます。自然豊かな環境に生まれ、植物や昆虫に親近感を抱いて育った作者は、画家となって後も、古典的な絵画のモティーフに共感できず、「祖先から皮膚におなじみの、もっと卑近な、もっとフレッシュな、私の魂にふれる」ものを必要としました。さまざまな生きものが混在する本作の画面からは、制作の源ともいうべき、身近でささやかな事物への偏愛が感じられます。