長崎港鳥瞰図
ながさきこうちょうかんず
概要
長崎湾沿岸部を中心とした絵図で、東は浦上村から西は遥か野母半島の先端まで描かれている。佐賀藩は福岡藩と隔年交代で長崎警備を担当していたが、戸町と西泊の両番所には佐賀藩の陣幕が張られており、本図は佐賀藩当番年の様子を描いている。長崎湾の内目と外目の境界にあたる神崎にはロシア船と見られる軍艦が停泊しており、その周りを佐賀藩船と福岡藩船が包囲している。このように本図の中核をなすのは長崎警備関係の情報とみられ、砲台や煙硝蔵、遠見番所を描くほか、岬間には無数の地点を朱線で結びその距離を記している。ところが、例えば佐賀藩が陣幕を張り警備にあたっている神ノ嶋には、「旧名ハ池御前ト云。池アリ後涸テ井トナル。旁ニ池夫人祠アリ」という貼紙があるなど、本図には地名のほか浦々・谷・峯・山、祠や寺社などについてその別称や由来などの地誌情報が詳細に記されている。またピンク色で表された長崎市中には役所や大名屋敷のほか町名・橋梁名を記すなど、単に警備のみならず長崎の歴史・地理を含む膨大な情報が精緻な絵画表現とともに盛り込まれているのである。