飯室切
いいむろぎれ
概要
もと比叡山(ひえいざん)横川(よかわ)の飯室別所に伝えられていたといわれ、その名がある。伝承筆者の嵯峨天皇(七八六―八四二年)は蔵人所の設置、勅撰漢詩集『凌(りょう)雲集(うんしゅう)』などの編纂、天台・真言二宗の庇護など、政治や文化の上で大きな治績をあげた。また書をよくして空海・橘逸勢とともに三筆の一人として称えられている。
写経としては大字で、小字で書かれた注は楷書に行書をまぜている。伝承筆者は嵯峨天皇とされているが、嵯峨天皇真筆とは別のものと考えられる。赤字の書き入れや白字の胡粉の書入れが見られ、白字の書き入れは空海筆と伝えられている。これは三筆といわれた嵯峨天皇と空海を結びつけたためと考えられる。
本書の内容は八世紀末の東大寺の僧、明一の金(こん)光明(こうみょう)最勝(さいしょう)王(おう)経(きょう)の注釈で、料紙は黄蘗(きはだ)で染めた穀紙(こくし)(奈良時代の楮(こうぞ)紙)である。
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