自画像
じがぞう
概要
日本が太平洋戦争に突入する直前、緊迫した空気が流れていた時代、竣介はアトリエで孤独に自画像を描き続けた。自画像を描く時、竣介は鏡に顔を映して描く代わりにガラス板の裏に墨を塗ったものを使ったことがあったという。こうすることで暗い背景にぼんやりと顔が映り、深みのあるトーンを把握できたらしい。レンブラントの自画像を模写してその表現を研究していたこともあり、この作品によって、線による表現から脱し、古典的な写実の表現を体得しようとしていたようである。美術さえも国家の臨戦体制へ組み込まれようとしたこの時期に、軍部と美術批評家による座談会記事が美術雑誌に掲載された。物質的に抑圧してでも画家の表現を規制しようとするその発言に対し、竣介は「生きてゐる画家」という文章で反論を試みる。新たな画風の模索、画家としての自己を見つめ直す行為がこの作品からうかがえるだろう。