花下躍鯉
かかやくり
概要
絹地に墨と顔料で描かれた日本画です。山桜(やまざくら)がちらほらと花を咲かせる月夜、静寂を破って跳躍した鯉の一瞬の姿を描いています。桜の枝越しにみる月は低い視点から眺められている一方で、とび跳ねた鯉は上からの視点で描かれています。月の浮かぶ空間と水面との境はあいまいで、画面の奥の桜も淡いシルエットとしてあらわされています。これとは対照的に、近景の桜花や鯉、波しぶきは極めて細かい筆致で描き込まれています。複合的な視点や対照的な描写が、幻想的な場面を効果的に演出しています。
作者の飯島光峨は1829年生まれ、絵師の沖一峨(おきいちが)に画(え)を学びました。師の一峨は15世紀いらいの伝統を有する画派、「狩野派」(かのうは)に属する絵師でしたが、狩野派以外の画風も積極的に取り入れたとされます。飯島光峨も、伝統的な画風に写実的な表現を加えた「円山派」(まるやまは)のスタイルを継承しつつ、新しい時代にふさわしい表現や境地を目指したといわれています。優美で細緻な動植物の画(え)を得意とした光峨は、明治10年、1877年の第1回内国勧業博覧会をはじめ、数々の博覧会や展覧会に作品を出品しました。