晋唐小楷冊
しんとうしょうかいさつ
概要
この冊子には、王羲之(おうぎし)や虞世南(ぐせいなん)など、東晋(とうしん)時代4世紀と唐時代7世紀から8世紀の、書の名家の作として伝わる「小楷」(しょうかい)、つまり小さなサイズの楷書体の拓本が、合計11種類収められています。「拓本」は、もととなる書跡を石や木に転写して彫り込み、紙に摺ったもので、白黒が反転しています。これらの拓本は、南宋時代12世紀に石邦哲(せきほうてつ)という人物が編集した『博古堂帖』(はっこどうじょう)という法帖(ほうじょう)に収録されたものの一部です。「法帖」とは、名筆といわれる書跡を集め、冊子の形式に仕立てたものです。
『博古堂帖』はもともと全27種類の拓本を収録していたともいわれています。完全な形で残っている『博古堂帖』は現存しませんが、その多くは小楷の書であったとみられます。歴代の中国では、役人となり立身出世することに価値があるとされました。科挙(かきょ)という、役人になるための試験では、答案を書く際の文字の美しさも判断基準評価の対象とされたため、受験生には形が整った美しい楷書を書けることが求められました。そのため小楷の名品は最良のお手本として、広く尊ばれることとなったのです。『博古堂帖』の刊行をきっかけに、明清(みんしん)時代の多くの法帖にも、小楷が採録されることになったといわれます。
この「晋唐小楷冊」は、版の彫りも拓本の摺りも実に精妙で、名品として古来高い評価を受けてきた『博古堂帖』の姿が偲(しの)ばれます。名だたるコレクターの手に渡りながら大切に伝えられてきました。