千字文巻
せんじもんかん
概要
ここに書かれているのは千字文(せんじもん)。ひとつとして同じ漢字は使われていません。千字文は、4字ずつの韻文250個からなる、漢字の教科書です。ことばと筆づかいをいっしょに習得できるもので、古代から、子どもの手習いのお手本ともなりました。
この千字文を書いた人物は、中国・明の儒学者、朱舜水(しゅ しゅんすい)です。明の滅亡に際し海外に逃がれ、明王朝の復興を企てながら果たせず、日本に永住しました。この書は、舜水を師とあおいだ江戸初期の柳川藩の儒学者、安藤省庵(あんどうせいあん)に、舜水が書き与えたものです。省庵は、舜水の人格を慕い、朱子学を学び、給料の半分を捧げて日本に亡命した師の生活を支えました。舜水はのちに水戸藩主・徳川光圀に招聘され、江戸に移り住みましたが、その後も省庵とは十数年ものあいだ便りを交わし、深い師弟の関係をはぐくみ続けました。
師・朱舜水は寛文3年(1663)の春、長崎で大火に遭い、省庵の地元、水郷で知られる筑後国柳川、今の福岡県柳川市に招かれました。この作品は、柳川の仮住まいで省庵のために書かれたことが末尾の奥書からわかります。長崎を火事で焼け出され、紙も道具もままならないであろう仮住まいの中で、師から弟子への感謝の気持ちで書かれたと想像したくなる作品です。