一重口水指 銘 柴庵
ひとえぐちみずさし しばのいおり
概要
滋賀県の南部を中心に作られた信楽焼の水指(みずさし)です。水指とは、茶の湯の席で水を汲んでおく器です。茶席では、蓋(ふた)と一緒に使います。
まず驚かされるのは、縦に大きく入ったひび割れです。これでは水がもれてしまいます。一見すると失敗作に見えますが、わび茶の世界では、こうしたひび割れこそが味わいとされました。ご安心ください。内側を見ると、水がもらないように、丁寧に漆で繕われています。
この水指のもうひとつの見どころは、窯で焼かれたときに降りかかった灰が自然の釉薬となって流れ、独特の「景色」をつくっているところです。ガラス質の美しい緑から焦げたような茶色まで、その色の変化も魅力的です。
さらに、信楽ならではの土の風合いもお見逃しなく。ほかの地方のやきものに比べて鉄分が少ない信楽の土は、焼くと温かみのある赤茶色になり、長石や石英などの細かい石粒が表面につぶつぶと表れているところなどが特徴です。
いずれも、土と炎によって生まれた自然の美であるところが、わび茶にふさわしいものとして尊ばれたのでしょう。