花下遊楽図屏風
かかゆうらくずびょうぶ
概要
この作品は、安土桃山時代の終わりから江戸時代のはじめ頃、今から400年ほど前のお花見を描いた屏風です。
大きな幔幕が張り巡らされるなか、春の宴が繰り広げられています。
右の屏風では、満開の八重桜の下、女性たちが車座になってご馳走を広げています。三味線に手拍子も加わって、明るい歌声まで聞こえてきそう。400年前のアウトドア女子会といったところでしょうか。
左の屏風では、白い海棠(かいどう)の花の下、八角堂の縁側に座った人々が踊りを眺めている様子が描かれています。お堂の縁の下には、居眠りしながら待つ駕籠(かご)かきの姿が見えています。
宴の主人公はどうやらかなり身分の高い人のようです。
縁側で、赤いきものを着て扇を手にしている子どもが、その主人公です。視線の先では、女たちが楽しそうに踊っています。
中央の一団は、最新のモードに身を包んだ美女たち。よく見ると、きりりとアイラインを引いた目は、濃い茶色の虹彩に黒い瞳を描き、目頭、目じり部分に薄墨を入れ立体感を出しています。右の一団は、刀を腰にさして男装をした女たち。こちらは流行の阿国(おくに)歌舞伎を写しているのでしょう。
足裏を見せて踊る人物の描写は、まさにストップモーション。縁側に座る人も思わずリズムをとっているのか足裏をみせています。
花見を楽しむ人々の、その一瞬を捕らえたこの作品は、季節を愛で、春を謳歌する日本人の心を見事にとらえ、現代に生きる私たちも自然と踊り、歌いたくなるような、すばらしい作品です。
残念なことに、右の屏風の中央部分は、大正12年(1923)の関東大震災で被災し、失われてしまいました。当初の画面はモノクロの写真でのみ確認することができます。