石井鶴三氏像
概要
今回紹介するのは、明治末から大正半ばの日本の彫刻界に大きな足跡を遺した中原悌二郎が、友人で彫刻家の石井鶴三をモデルに造った作品である。
「若きカフス人」によってその名が広く知られた中原は、最初、画家を志して、十八歳のときに故郷の北海道から上京したが、彫刻家萩原守衛や戸張孤雁らと交友を持ち、彫刻を志向するに至った。
大正五年(一五一六)には、日本美術院研究所彫刻部に入り、石井鶴三、平櫛田中らと知り合い、互いにモデルとなり切磋琢磨して制作を行ったが、その成果の一つがこの「石井氏像」である。
無駄のない的確な肉づけは、表面的な描写に終わらない、内面的な生命感の表出を生んで、密度の高い彫塑表現を達成することに成功している。
この像は、画家の中村つねや有島生馬らによって激賞され、第三回院展で樗牛賞を受けることになった。中原の出世作ともいうべき作品である。(毛利伊知郎)