自画像
概要
ドレスデン近郊の町で生まれたミュラーは、その芸術的出発点を石版画に求めた。生涯多くのリトグラフを残すが、大半はやせぎすの体の女性像を風景の中に配したものである。一九〇七年からベルリンに活動の場を移し、一〇年以降は表現主義運動の端緒であった「ブリュッケ」の活動に参加、本作が制作されたころには、ベルリンでの個展を終え、ブレスラウのアカデミーの教授となっていた。画面は太く単純化された輪郭線が特徴的で、素早くしかし的確にとらえられた形態は力強さを伝えている。また、わずかに右に向けられた顔と左へと流された視線は、造形的な工夫と同時に、ダンディズムさえ感じさせ、作者の人となりを伝えてくれる。自画像と言えば、制作時の何らかの「構え」が作品から伝わってくることが多いが、ミュラーの場合、それらはあまり声高に主張せず、彼の個性的な描線に消化されている。(生田ゆき)