イニ像浮彫
いにぞううきぼり
概要
大きな墓の壁の一部で、石灰岩に人物を浮彫で表し、古代エジプトの文字である「ヒエログリフ」で文章を記しています。この人物は、エジプト第6王朝の王ペピ1世と息子のメルエンラー1世の、2代の王に仕えた、イニという貴族です。刻まれた文には、イニがエジプトの派遣団を率いて何度もシリア方面へ赴き、銀、鉛、ラピスラズリといった貴重品を持ち帰ったことが特筆されています。イニは外交と国際交易の双方を担い、当時のエジプト王朝を支えた重要人物といえるでしょう。
さて、このイニの像には、いくつか不思議な点があります。前後に開いた両足から胸までが横向きなのに対し、両肩は不自然に正面を向いています。さらに、手の指をよく観察すると、杖を手にした左腕が右肩につき、右腕は左肩についているのが分かります。顔は横向きですが、目は正面から見た形です。
古代エジプトでは、人物を絵や浮彫などの2次元に表現するさい、体の動きや配置をそれらしく写実的に描くことよりも、体の各パーツを最もそのパーツらしく見えるように表すことが配慮されました。両肩が正面を向くのはそのためでしょう。また、左向きに描かれているイニ像の場合、本来の姿を描くと、前に出る左腕が胸部に重なってしまいます。それを避けるために、両腕の位置を交換したと考えられます。