ウミガメ頭骨
とうこつ
概要
アイヌは、農作物の出来(でき)や狩りの成功、失敗、天災などの自然現象、そして人の生死にいたるまでを、神の力によるものと考えていました。また、あらゆる自然現象や物は、神がその姿を変えたものとも考えていました。この神のことをアイヌ語では「カムイ」といいます。
そのため、命がなくなったり物が壊れたりすると、神への恩返しとして、丁寧に感謝の気持ちを伝えるための儀式を行い、その命を神の世界へと送り返し、再びこの世へ来訪することを願いました。アイヌにとっては狩りで捕えた山の動物、水の動物も、肉や毛皮、骨や甲羅(こうら)を与えてくれた神であり、これらの命を神の世界へ丁寧に送り返すことにより、再びアイヌの暮らす世界に現れ、豊かな恵みを与えてくれることを願ったのです。
これは、下顎(したあご)の形状と前頭骨(ぜんとうこつ)の甲羅(こうら)の形から、アカウミガメの成獣の頭骨と考えられています。頭頂骨を切断した後に、「削り懸け」(けずりかけ)という、木材の一部を薄く削ってちぢれさせた信仰的な飾り物で装飾しています。アカウミガメは本来、温帯から熱帯海域に生息し、ときに太平洋側では北海道、日本海側では東北地方まで北上することがあります。海岸に暮らすアイヌが豊漁を祈願するために、亀の頭を神として祭ったものです。この神をアイヌ語では、エチンケサパといいます。