小滝のチョウクライロ舞
こたきのちょうくらいろまい
概要
小滝のチョウクライロ舞は、秋田県由利郡象潟町【ゆりぐんきさかたまち】小滝の金峰【きんぽう】神社の祭礼で演じられ、タエシトン、八講祭舞楽【はっこうさいぶがく】などとも呼ばれている。現在は小滝地区に居住する人びとを構成員とした鳥海山【ちょうかいさん】小滝舞楽保存会によって伝承されているが、かつては鳥海修験【しゅげん】が関与した延年【えんねん】である。
象潟町は、秋田県の西南端、南東に鳥海山の頂を望む地にあり、南は山形県と接し、西は日本海に面する。小滝地区は、日本海に注ぐ奈曽川の上流、鳥海山に至る街道に沿って形成され、鳥海山の秋田側の登山口に当たり、近世には、鳥海修験の拠点の一つであった。
金峰神社は、神仏分離以前は蔵王権現を祀る蔵王堂であり、龍山寺【りゅうざんじ】がその別当で、祭事は龍山寺院主が所掌していた。蔵王権現は、役【えん】の行者【ぎょうじゃ】が奈良の金峰山【きんぶせん】より勧請【かんじょう】したと伝えられている。小滝地区およびその周辺には龍山寺配下の修験の坊があり、チョウクライロ舞の担い手は修験の関係者に限られていたとされる。明治以降は、金峰神社の氏子有志により、さらに昭和三十九年以後は鳥海山小滝舞楽保存会によって伝承されている。
チョウクライロ舞が演じられる金峰神社の祭礼は、明治三十年ころまで毎年旧暦の三月十七日に行われてきたが、その後、数度にわたり期日の変更があり、現在は、五月の最終土曜日に行われている。五月中旬ころになるとチョウクライロ舞の練習が始まり、祭礼前日の日中、神社境内の舞台で最後の稽古が行われる。この舞台はチョウクライロ山、閻浮台【えんぶだい】(堤)などと呼ばれる、約二間(約三・六メートル)四方、高さ二尺(約六〇センチメートル)の土の舞台である。舞台での稽古が終わると、舞台の四隅に竹や幡【はた】を立て、四方に注連縄【しめなわ】を張りめぐらし、舞台の東側に幕を張って楽屋を設けるなどし準備を整えておく。祭礼当日は、舞人【まいにん】が当番宿【やど】で衣裳を着けたり化粧をするなど早朝より準備を始め、定刻になると当番町の関係者、氏子総代、チョウクライロ舞の舞人や楽人【がくじん】、獅子舞の関係者等が揃う。「十二段の舞」と呼ばれる獅子舞が舞われたのち、一行は行列を組んで当番宿から金峰神社まで練る。その後、神輿、陵王【りょうおう】と納曽利【なそり】の面などを行列に加えて、さらに境内の舞台まで進む。一行は舞台の回りを三周し、舞台の西側に舞台に向けて神輿を据え置き、まずは舞台上で「十二段の舞」を奉納する。御宝頭【ごほうとう】と呼ばれる獅子頭、陵王と納曽利の面を舞台上に置き、次にチョウクライロ舞が舞われる。
舞には太鼓、笛、ジャガ(手びら鉦)、笏拍子【しゃくびょうし】が伴奏楽器として付き、笏拍子を手にした者が唱詞【となえことば】を囃す。楽人は舞台上で演奏し、舞人は舞台の東方に設けられた楽屋に控え、出番で舞台に登る。
「九舎【くしゃ】の舞」はタエシトンとも言われる。青年二人が狩衣【かりぎぬ】を着け、陵王と納曽利の面を用い、最初は烏帽子を手に烏帽子舞を、次に袖をとって舞う袖舞、扇を手に舞う扇舞と続ける。「荒金【あらがね】の舞」は狩衣姿で薙刀【なぎなた】を手にした青年一人による舞で、まず四方に張りめぐらされた注連縄をそれぞれ切り放ち、次いで舞うものである。「小児【ちご】の舞」は六人の男児が花笠をかぶり、三人は腰に鞨鼓【かっこ】を付け、残り三人は手にびんざさらを持って舞う。最初は二人舞、後に六人舞となる。これは別にチョウクライロとも呼ばれる舞である。舞が終わると、舞台の一方に花笠を並べて置いておく。「太平楽【たいへいらく】の舞」は花笠をとった男児のうち四人がそのまま務める。途中、腰にさした刀を鞘ごと抜き、二人ずつ合わせる所作を行う。「祖父祖母の舞」は翁【おきな】と媼【おうな】の面を着けた男児二人による舞である。次の「瓊矛【ぬほこ】の舞」は納曽利の面を着けた青年一人が幣を受け取り舞う。最後の「閻浮の舞」も青年一人によるもので、始め陵王の面を着け笏を持って舞い、次に納曽利の面を着け扇を持って舞う。「閻浮の舞」が終わると、舞を見ていた人びとは競って花笠の花を取り合って家に持ち帰り、チョウクライロ舞は終了となる。
この祭りの由来に関しては、天保九年(一八三八)とされる記録に、斉衡三年(八五六)文徳天皇の勅命により、慈覚大師が鳥海山に住む悪鬼を退治するために蔵王権現の神前において法華八講を執り行ったとある。同記録には続けて「祭法式之舞」として「第一 九舎之舞」「第二 荒金之舞」「第三 小兒之舞」「第四 太平樂之舞」「第五 祖父祖母之舞」「第六 瓊矛之舞」「第七 閻浮之舞」と七つの舞が列記され、それぞれの唱詞や舞の意味などが記されている。
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国指定文化財等データベース(文化庁)