オンネトー湯の滝マンガン酸化物生成地
おんねとーゆのたきまんがんさんかぶつせいせいち
概要
オンネトー湯の滝は,活火山である雌阿寒岳と阿寒富士の西麓に拡がる原生林内に位置する。神秘の湖として知られるオンネトーから1.5kmの距離にあり,阿寒国立公園の重要な地域となっている。高さ20数メートルの2条の滝からなる。滝上流の泉源では温度40℃ほどの温泉が湧き出し,原生林内の秘湯として利用されてきた。
湯の滝でマンガン鉱物が形成されていることは古くから知られ,昭和20年代には,総量およそ3,500トンが採掘された。マンガン鉱物は,現代文明を維持する上で重要な資源である。製鉄の際に不可欠の添加物であり(マンガン鉱物消費量の約9割),日常生活に欠かせない乾電池の材料(消費量約1割)でもある。原料となるマンガン鉱石は,地質時代に形成された鉱床から採掘され,オーストラリアや南アフリカなどから輸入されている。
現在地球上でマンガン鉱床が形成されている場所は,海底(海底火山の噴出物や大洋底のマンガン団塊)に限られる。オンネトー湯の滝は,陸上で観察できる最大のマンガン鉱物生成場所であり,「天然の実験室」として世界的にも注目されている。
湯の滝の温泉水は,雌阿寒岳や阿寒富士の斜面での降水が地下に浸透し,十数年かけて溶岩の末端から湧出したものである。泉源と滝の斜面には,光合成によって酸素を放出するシアノバクテリア(藍藻類),この酸素と温泉水中のマンガンイオンを結合するマンガン酸化細菌などの微生物が生息する。
こうした微生物の複合作用により,滝斜面に二酸化マンガンが形成され,年間1トン以上の沈殿物が生成する。沈殿物は,肉眼的にはマンガン泥と呼ばれる黒色の泥である。顕微鏡下では,藻類が織りなすマット中に板状の結晶が集まった集合体となっている。さらに,周辺の4〜5千年前の地層中から見つかったマンガン鉱物の層は,こうしたマンガン泥が時間をかけて緻密で安定したマンガン鉱床へと熟成してゆくことを示している。
オンネトー湯の滝で進行している微生物によるマンガン鉱物の生成は,豊富な酸素のもとに多様な生命の活動を支える地球環境が形成された35億年前の地球上で始まった現象と共通のもので,現在の海洋や大気の形成された過程を再現するものである。地球や生命の歴史を解明する上でもたいへん貴重な現象である。よって湧水・微生物を含む滝全体を天然記念物に指定し保護を図るものである。