五大明王像
ごだいみょうおうぞう
概要
五大尊(五大明王)は、不空訳の『仁王護国般若波羅蜜多経』二巻や『摂無碍経』一巻に説かれる五方に配置される明王で、不動(中央)、降三世(こうざんぜ)(東・向かって右下)、軍荼利(ぐんだり)(南・左下)、大威徳(だいいとく)(西・左上)、金剛夜叉(こんごうやしゃ)(北・右上)から成る。五幅に描く五大尊像は記録では平安時代の早くから知られ、実際、京都・東寺の画像五大尊像などの遺例が知られるが、本図のような不動明王像を中心に他を四方に配する一幅仕立ての五大尊像の成立はそれよりは降り、白描図像では平安末期から鎌倉初期のものがはじめて知られる。
図様から見れば、不動は京都・青蓮院本の青不動様をより充満の体躯に表し、面相も青不動に近い。いわゆる玄朝様(げんちょうよう)の図様を示している。後背に負う火炎光は迦楼羅光(かるらこう)のなごりのように七区の部分に分ける。二童子像も青不動像をひくとされる大阪・法楽寺本や兵庫・瑠璃寺本をとりまぜた形式である(制咤迦制童子は醍醐寺本白描玄朝様二童子像のそれに同じ)。四明王は図像上の特徴が醍醐寺本の五大尊像のうち不動を除く四明王によく一致し、これはまた『別尊雑記』所載の円心様(えんじんよう)の図像とも同様である。すなわち本図は先行する数種の図像を組み合わせ、新たに一図に構成したことがわかる。
不動明王像には青不動のような精緻な彩色文様は施さず、むしろおさえた重々しい色調と強い隈取り、筆意ある墨線による描写など、その表現は平安仏画からかなり隔たりがあり、力強い作風の鎌倉時代仏画に独自の特徴を備えている。
奈良国立博物館の名宝─一世紀の軌跡. 奈良国立博物館, 1997, p.312, no.155.