愛染明王像
あいぜんみょうおうぞう
概要
十二角の二重框座から蓮茎を束ねて鼓状に立ち上がる蓮台に、正面向きに坐す三目六臂、朱肉身の愛染明王を描き、明王は頭上に三鈷を頂く獅子冠を載せ、怒髪を逆立て、六臂の内左第一手に五鈷鈴、右第一手に五鈷杵を執り、左第二手に矢、左第三手に日輪(内に三足烏をあらわす)、右第三手に未敷蓮華を、それぞれ執って、頂と背に唐草文をめぐらす円光を負い、さらにこれを包むように舟形の火焔光がおかれる。
本画像のような台座や光背の特異な形式、および左第三手に三足烏の日輪を載せる図像と近似するものはわずかに醍醐寺や仁和寺所蔵の白描図像中に知られるのみで、醍醐寺本には「法勝寺図様」とした註書があることから、これが白河天皇(1053〜1129)の御願寺だる法勝寺円堂の愛染明王像の像容を伝えるものであることが知られる。同図像の台座框上面の見取図にも「十二角也」と註書がある。このような形式の画像は彩色本として唯一の作例であり、端正にして清明な作風や細かな彩色文様と截金、箔押しに墨線描き起こしの技法からみて、制作時期は鎌倉時代も中期を下らない、愛染明王像の稀有の一本として注目される。
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公益財団法人 根津美術館