錫杖頭
しゃくじょうとう
概要
錫杖の用途に関しては、三つの説がある。そのひとつは、僧侶が山野を巡行するときに、毒虫などの害をさけるため(『四分律』第五十二)、または托鉢するときに人家の前でこれを振って鳴らし家人に来訪を知らせるため(『優娑塞五戒威儀経』)、さらに老病の僧侶がこれを杖として用いるため(『四分律』第五十二)の道具であるといわれている。
この錫杖は心葉形の輪部の中央に、宝珠形の頭光をつけ、水瓶を手にした菩薩立像を中心に置き、その左右の茎上に邪鬼を踏んだ天部立像を脇侍させている。輪部は菱形の断面をもち、頂部と双肩には相輪をつけた宝塔を乗せ、その下部には合掌比丘と右手を与願印とした比丘の立像を左右に配し、さらに下方には卒塔婆形を立てた枝を左右に付している。輪部の下の柄を付けるための穂袋部は長めに造られ、三箇所に子持ち三凸帯を巡らしている。遊環を失っているが、頂部の六面宝塔のつくりや輪部の菱形にした鎬の力強さ、総体に細身であるにも関わらず輪の幅が太いことなどは、古様を見せている。平安後期以降には、こうした仏像が付けられた錫杖は見られないので、このように仏像、宝塔、卒塔婆を供える例は珍しい。そのため平安後期の制作が考えられる。
尊像、脇侍、天部を荘厳した錫杖の証来品としては、香川県善通寺の金銅錫杖頭が知られる。この錫杖の類品としててゃ、栃木県二荒山神社蔵の男体山出土の錫杖が挙げられる。
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