絹本著色伝足利義政像
けんぽんちゃくしょくでんあしかがよしまさぞう
概要
本図を収める箱の墨書によって、像主は足利家八代将軍の義政(一四三六-九〇)と伝えられる。墨書は、天明九年(一七八九)に江戸中期の土佐派の絵師、土佐光貞によって書かれたもので、旧箱が破損したため、新たに造り直した際のものである。
足利歴代将軍の肖像としては、二代義詮【よしあきら】像(宝篋院【ほうきよういん】蔵)、三代義満像(鹿苑寺蔵)、四代義持像(神護寺蔵、慈済院像)、六代義教像(妙興寺蔵)、十三代義輝像(国立歴史民俗博物館)、および九代義尚像とされる騎馬武者像(地蔵院蔵)がこれまでに重要文化財に指定されている。
そのなかにあって本像のように、室内であることを明瞭に示しているのは珍しい。像主は上畳の上に坐し、背後には山水図襖四面が立てられる。この背後の山水図は、画中の人物の一部などに淡い彩色があるが、ほとんど水墨画といってさしつかえないもので、松樹、楼閣、橋を渡る人物、船で釣りをする人物などが描かれている。面前に鏡台という調度品が置かれていることからすると、この像は没後に礼拝の対象として描かれたというよりも、日常の姿を写させた肖像であることを思わせる。
画絹は比較的目の粗いものである。上畳の部分などに、補絹、補彩が認められるが、顔貌の描線など主要な部分は、当初のものを残しており、なお当時の温雅で繊細な描写をうかがうことができる。
本図は箱書からもわかるように、土佐家に伝来していることから、筆者も土佐派の絵師である可能性が高いが、特定の人物を確定するまでには至らない。制作年代は、賛文など直接的手がかりとなるものがないため、判断に困難をともなうが、背後の襖絵に描かれた水墨画などによって推測すれば、おおよそ室町時代中期と考えられよう。
なお、本図は明治十九年に国によって購入されたものである。