今昔物語集
こんじゃくものがたりしゅう
概要
『今昔物語集』はわが国最大の説話集で、その成立は十二世紀前半と考えられている。
この京都大学図書館所蔵になる鈴鹿本は、現存『今昔物語集』諸写本の祖本として著明な古写本で、巻第二・五・七・九・十・十二・十七・廿七・廿九の九巻分を存する。体裁は大判の袋綴冊子本で、近年の修理になる新補朽葉表紙を付している。原表紙は料紙共紙で外題はなく、本文料紙は楮紙に天単罫の押界を施している。各冊首に「今昔物語集巻第『幾』」と首題を掲げ、一字下げに部立を記し、ついで各標目を一行(巻十七は二段)に書すが、この「今昔物語集」の書名は本書によってのみ確定できるものである。本文は「今昔」で始まり、半葉一一行、行およそ二八字前後に「トナム語リ伝ヘタルトヤ」の形で統一された宣名書の片仮名交り文で、片仮名は小字で右寄せまたは割書し、文中には黒仮名点、声点が付されている。書写奥書はないが、その大判の体裁や料紙、書風等よりみて、鎌倉時代中期の書写本と認められる。
本書の本朝部諸本の一部には、後筆で「総六丸」の披見識語があり、うち巻第廿七には「一見畢、南井房内総六丸、此比春日大社開門尤以目出タシ」云々とみえている。この識語は『大乗院日記目録』文安三年(一四四六)七月条の記事に一致し、『経覚私要鈔』宝徳三年(一四五一)七月四日条にみる今昔の貸借記事と相まって、本書の南都での伝来を考えるうえに注目される。