一字金輪曼荼羅
いちじきんりんまんだら
概要
一字金輪曼荼羅は、息災や敬愛のために修する一字金輪法の本尊像として用いられる。はじめ東寺長者のみに許された修法とされたが、平安中期11世紀後半以降、仁和寺や円宗寺で恒例とされ、また台密でも用いられるようにもなった。
図は、不空訳『金剛頂経一字頂輪王瑜伽一切時処念誦成仏儀軌』(「時処軌」)にしたがう表現である。すなわち中央に火炎光背をおう大日金輪が獅子座上に智拳印を表して坐し、正面下方に輪宝を置き、右回りに珠宝、女宝、馬宝、象宝、主蔵宝、主兵宝、仏眼仏母などの七宝を配している。
大日金輪像は白肉身とし、濃い朱線で描起こし、朱の隈取りを施し、強い張りのある尊容を作っている。着衣は薄い白茶色に塗りそこに截金と彩色による文様を散らす。装身具は金截箔などを用いる装飾性豊かなもの。暖色がめだつ濃密な賦彩は優美さとともにある種の強さをも感じさせ、本図の魅力の一つともなっている。背景は中ほどより上は群青で虚空を表し、下辺は群青地に截金で甃(いしだたみ)文を表している。
奈良国立博物館の名宝─一世紀の軌跡. 奈良国立博物館, 1997, p.310, no.146.