大毘盧遮那成仏神変加持経 巻第四
だいびるしゃなじょうぶつじんべんかじきょう かんだい4
概要
写経の料紙に消息(手紙)を用いたものを消息経と呼ぶ。消息経は平安時代から室町時代にかけてしばしば制作された。その目的の多くは、消息の筆者である故人の供養のためであったが、美しい筆跡を経巻の装飾とすることもあった。
消息を料紙に用いる方法には、裏返す、漉き返す、表を使う、の三通りがある。本経は消息の表に経典を書写した例である。まず消息を切断し、上下左右を合せ、紙を打ち直し、雲母引きし、界線を施し、経文を書写している。鎌倉時代の消息経は『法華経』や浄土三部経が一般的で、『大毘盧遮那成仏神変加持経』(全7巻)が書写されるのは珍しい。
用いられた消息は薄墨の仮名消息で、連綿体の仮名の変化の妙が美しく、濃墨で楷書体の経文との対比が効果的である。
僚巻として、巻第二(唐招提寺蔵)、巻第三(東京国立博物館蔵)、巻第六(重要文化財、個人蔵)、巻第七(重要文化財、個人蔵)の存在が知られている。
奈良国立博物館の名宝─一世紀の軌跡. 奈良国立博物館, 1997, p.304, no.121.