五髻文殊菩薩像
ごけいもんじゅぼさつぞう
概要
文殊菩薩は、普賢(ふげん)菩薩と共に釈迦如来(しゃかにょらい)に付き従う脇侍(きょうじ)です。知恵の菩薩として広く信仰され、単独の像も数多くつくられました。
文殊の乗り物は獅子(しし)です。獅子の背中には蓮の花をかたどった蓮華座をのせ、文殊はその上に座っています。右手には煩悩を断ち切る知恵の剣、左手にはやはり知恵を象徴する経典をのせた蓮華を持っています。
頭には五つの髻(もとどり)を結っています。密教の文殊菩薩像には、髻の数が一・五・六・七の四種類があります。このうち、五つの髻の文殊は敬愛を司るとされ、子どもの姿で表されるのが一般的です。この像も肉付きのよい子どもの姿をしていますが、知恵の菩薩らしくきりっと厳しい表情に見えます。
この作品は、戦前・戦後を通じて「電力王」と呼ばれた実業家であり、数寄者としても名高い松永安左エ門(耳庵)から当館に寄贈されたものです。益田鈍翁をはじめとする近代の茶人たちは、こうした仏画を茶会で積極的に用いました。この文殊菩薩像も昭和17年10月18日の茶会で実際に使われたことが、耳庵自身の茶会記によってわかっています。
それまで茶の湯の席では用いられなかった仏教美術を取り入れたこと、また、仏画を礼拝の対象としてではなく美術品のひとつとして鑑賞したこと。さまざまな意味で革新的な試みだったということができるでしょう。