阿波鳴門之風景
あわなるとのふうけい
概要
「阿波鳴門之風景(あわなるとのふうけい)」は、風景を描いた浮世絵で人気を集めた歌川広重による、三枚続きの浮世絵版画です。雪景色の「木曽路之山川(きそじのさんせん)」、月を描いた「武陽金澤八勝夜景(ぶようかなざわはっしょうやけい)」とともに広重が安政4年(1857)に出版した3枚続の風景画で、鳴門海峡の渦潮を花に見立て「雪月花三部作」とも呼ばれています。
江戸時代後期には、戦のない平和な時代に交通網の発達も重なり、庶民のレジャーとして旅が盛んになりました。加えて西洋の透視図法や陰影法が空間表現に取り入れられ、実際の景色の写生に基づいたリアルな風景画が多く描かれました。絵師・淵上旭江(ふちがみきょっこう)が訪れた各地の珍しい風景を写生し刊行した版本「山水奇観」もそのひとつです。版本、つまり印刷された複製メディアにのって各地に大きく広がった旭江の作例を広重も参考にし、この「阿波鳴門之風景」をはじめ、多くの作品を描きました。水平線を高く配置し、上空から見下ろした視点や、3枚にまたがったワイド画面に描かれたパノラマ的な表現、そして遠くにいくにつれ淡くなっていく海の色が、広々とした鳴門海峡の景色にマッチしています。この作品は、江戸時代後期の人々の旅や風景への関心を背景に、実景をもとにしたリアルな風景画へのニーズによって生まれたのでしょう。