七宝
しっぽう
概要
花柳章太郎による七宝絵。七宝とは金属の素地にガラス質の釉薬を用いた焼物で、七宝で絵画を表現する七宝絵(無線七宝)とよばれるものを章太郎は好んで手掛けた。七宝絵は輪郭線をつくらず、異なる色の釉薬を塗り絵画を表現するもの。章太郎は歌舞伎や新派の舞台、芝居に馴染の深い東京の下町を題材にして七宝絵を制作することが多く、この七宝絵も歌舞伎の「一谷嫩軍記」を題材としている。
「一谷嫩軍記」はもともと人形浄瑠璃で、「平家物語」の一の谷の戦いにおける平忠度を討った岡部六弥太、熊谷次郎直実と平敦盛の戦いを脚色したもの。二段目の「組討の場」の最後、須磨の浜で熊谷と敦盛の一騎打ちとなるが、熊谷によって敦盛の首は打ち落とされる。熊谷は敦盛とその妻の玉織姫の死骸を馬の背に載せ、手には討ち取った首を持ったまま馬の手綱を引いて立ち去るが、実は熊谷が討ち取ったのは敦盛の身代わりとなった我が子であった。海辺で馬を引く熊谷の姿が七宝で描かれる。
花柳章太郎(1894~1965)の旧蔵品で平成10年(1998)に遺族の青山久仁子氏より国立劇場へ寄贈された。