ポエム No.3 春の譜
概要
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春の譜 ポエムNo.3
Poem of spring Poem No.3
1944(昭和19)年
木版、紙 43×43㎝
woodcut
第13回日本版画協会展
恩地の抽象的表現の展開を見ると、大正期の「抒情的抽象の時代」、昭和戦前期から戦後にかけての「ポエムの時代」、戦後の「リリックの時代」に大別できる。〈春の譜〉は戦後の後期抽象作品へ向かう直前の「ポエムの時代」の代表作であり、戦前の近代版画を戦後の現代版画へ中継ぎする要にある作品である。この作品を見ていると、てんとう虫が這う緑の葉茎と、いも虫がうごめく黒土を想像させる二つの形が、ぽかっと姿を現した赤土を思わせる朱と空色の逆円錐形に誘われるように動き出し、その間をうららかな春の大気がリズミカルに流れているように思われてくる。この作品が戦時中の作品とは思えないような、激しくなる戦争のさなかにも訪れる自然の春の装いを楽しむ詩人の心が感じられる。同時に、さわやかな抒情をひきおこす形と配色に恩地のデサイナー的センスを見ることができる。