婦人帽子店
概要
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婦人帽子店
At the Milliner''s
1935年
水彩・麻布 105.0×125.0㎝
中西利雄が描き始めたころ、水彩画はひところのブームも終わり、完全な沈滞期を迎えていた。油絵を主とすれば、それはあくまでも従であり、画家が一生を通じて探究すべきものとみなされてはいなかった。中西にしても、東京美術学校西洋画科在学中に、あまりに水彩画に熱心なので再三注意を受けたという。にもかかわらず、中西はこれに反発し、それまで情緒的なものに流れがちであった、透明水彩による水彩画に不透明水彩を併用し、どっしりした構成ないし構築感を与えることに成功した。中西がときに水彩画の近代的革新者と呼ばれるのも主としてここによっている。また、水彩画と油絵の間には、顔料について、前者は水、後者は油で溶くだけの違いしかなく、優劣関係はないというのが中西の持論であり、彼自身はしたがって水彩画のかわりに水絵という呼称を用いた。
《婦人帽子店》はこうした中西の面目躍如ともいうべき大作である。人物と帽子と鏡像をうまく組み合わせたその知的な画面構成は、不透明水彩の使用とあいまって、およそ水彩らしくない重厚感を生み出している。