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雪中の狩人

せっちゅうのかりゅうど

概要

雪中の狩人

せっちゅうのかりゅうど

油彩画

ブリューゲル、ピーテル(子)  (1564-1638)

ぶりゅーげる、ぴーてる(こ)

フランドル

17世紀

油彩、板

25.5×32.5cm

1

いうまでもなくこの絵は、16世紀フランドルの大画家である作者の父の有名な作品(ウィーン美術史美術館蔵)の模作である。作者は同時代の愛好家の求めに応じて、父の作品のコピーや、ヴァリエーションの制作を行い、希少な父の絵画様式を広めることに貢献した。一方、オリジナル作品では、子鬼やグロテスクな人物などが登場する風俗画を描いたために「地獄のブリューゲル」と呼ばれている。 本作を具体的に父の作品と比較してゆくと、異なっている点がかなり多いことがわかる。このことは父の作品が117×162cmという大型の画面に対し、この絵が小型の画面に描かれており、画面上の制約があったことも理由の一つであろう。父の作品には「季節画」連作の1点として〈冬〉を表わすモチーフが丁寧に描き込まれていたものが、この絵では簡略化され、それらはほとんど形式的な描写に留まっている。 父の絵では、近景に狩人が3人、犬が14匹、看板のある居酒屋の前で豚の毛焼き(12月の風物詩で屠殺直後の加工処理。焚き火ではない)をする人物が5人、まっすぐ伸びた潅木が狩人の進行方向に4本、中景にスケート、コルヴェン(一種のゴルフ)、カーリング、独楽回し、三脚椅子を使ったそり滑りなど、冬の遊戯に興じる子どもたち、遠景に南斜面の雪が溶け、岩肌を見せる尖った山々が刻明に描写されているが、この絵では、狩人が5人、犬が11匹、看板のない居酒屋の前の人物が3人、幹の曲がった大きな潅木が狩人の左右に2本、氷上で遊ぶ子どもたちの動作はやっと判別できる程度で、遠くの山々に至っては白と淡い水色のタッチだけの省略形となっている。 また色彩の点でも父の絵が東洋の水墨画のように限られた色でモノトーンの色感を見せているのに対し、この絵では狩人の服の赤や中・遠景の水色が目立ち、全体に色彩感を増している。 この景色が特定の場所を描いたものかどうかについては、ジュネーヴ湖の東端からの眺望とする説や、インスブルック近郊の村の景観とする説が過去に提唱されたが、むしろブリューゲル絵画の特徴である〈合成された世界風景〉と捉えるのが妥当であろう。いずれにせよ、当時の冬の典型的な風俗をパノラミックな視覚世界に仕立てて描いたこの作品には、四季折々の生活への愛着、子どもの遊戯に関する愛情、大自然に対する畏敬の念など、ブリューゲルの豊かな感性の数々を垣間見ることができる。

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