姫島の黒曜石産地
ひめしまのこくようせきさんち
概要
姫島は、大分県国東半島の沖合4kmの周防灘(瀬戸内海)にあり、周囲17km、東西7 km、南北3kmの東西に細長い島で、最高点は島の中央の標高266.6mの矢筈岳である。姫島は、縄文〜弥生時代に西南日本に広く分布した黒曜石石器の原産地としても知られる。
姫島は、第四紀更新世前〜中期の堆積岩類を基盤とし、その後約30万年前頃に始まる一連の火山活動で形成された七つの火山である姫島火山群を構成する。火山は、大海・矢筈岳・金・稲積・城山・達磨山・浮洲の七つが識別され、各火山が溶岩円頂丘やマグマ水蒸気爆発によって形成されたタフリング・タフコーンから構成される。これは、激しい噴火活動が海面付近で起きたことを物語っている。各火山の噴火順序は必ずしも明らかではないが、矢筈岳火山が大海火山を覆うこと、達磨山火山に由来する火山礫が、城山火山の火口堆積物中に挟まれること、大海火山や金火山の解析が進んでいるなどの前後関係が推定される。
城山火山は、姫島北西部に形成された火山で、ざくろ石を含むガラス質の流紋岩熔 岩ドームと観音崎と城山の2つの火口からなる。指定範囲にあるのは観音崎火口と周 囲を取り巻く熔岩ドームである。城山熔岩の大部分は非常に細かく発泡した乳白色の熔岩であるが、観音崎火口周辺では、灰黒色の黒曜岩となっている。発泡の良い乳白色部と黒曜岩質の部分は漸移的で、黒曜岩の部分の破砕が進んでいる場合もある。熔岩には流理構造が顕著な場合があり、この走行傾斜の方向から、熔岩ドームの形成が推定されている。また、観音崎火口の内側には、火口内部を充填した、凝灰角礫岩ないしは火山礫凝灰岩が分布する。礫には、城山熔岩と同質のざくろ石流紋岩(黒曜岩を含む)ほか、安山岩の円礫も含まれる。黒曜岩の絶対年代は、観音崎に露出する黒 曜岩で測定されており、フィッショントラック年代で32-34万年前、K-Ar法で20万年前の年代値が得られている。
石器石材としても旧石器時代から弥生時代にかけて山口県や西南四国において流通が確認されている。特に大分県国東市羽田遺跡や大分市横尾遺跡では、10kgを越える原石などが出土しており、当時の流通システム、交易圏を解明する上でも貴重な資料となるものである。地表に露出し観察が容易な黒曜石産地は全国的にも貴重であり、北海道の白滝地方、長野県の霧ヶ峰周辺などと少ない。また全国の多くの黒曜石が黒 色であるのに対し、姫島産のものは白みがかっていて極めて特徴的である。また単に黒曜石の産地としてだけでなく、第四紀後期の火山活動現象を現す場所としても貴重である。よって、天然記念物に指定し、永く保存を図ろうとするものである。