十王図
じゅうおうず
概要
十王は冥界で死者の生前の行いの裁判をする十名の王で、人間の転生先を決定する。裁判の結果地獄へ堕とされる事態を免れるには、遺族あるいは本人が供養や作善を行うと裁量されると信じられた。この信仰は中国で晩唐までには成立し、宋代には広く流布した。十王信仰は中国に留まらず、朝鮮半島、日本にも伝わっている。
本図は日本に伝来した中国製の十王図の三幅で、もとは十幅あったとみられる。三幅のうち二幅に「陸仲淵筆」と署名があることから作者の名がわかる。陸仲淵は、同じく陸姓を持ち、多数の十王図に署名を残す南宋期・寧波の陸信忠と近い関係にあると考えられており、本図の図様も陸信忠筆十王図の一系統(法然寺本系統)に相似する。寧波の市井で活動した陸家は、工房製作によって人々の受容をみたす仏画を描いたとみられる。
現存する宋代の十王図に比較すると、本図は画面下方半分程度を使い、地獄を豊かに活写する点に特徴がある。最後の裁判を行う五道転輪王の場面では、地獄から解き放たれる死者(罪人)を描きこんでおり、作善や供養により罪人すら救われることを絵解きするようである。描写の粗雑さは否定し難いが、当時の信仰の様、また陸家の画業を伝える重要な作品である。森村家伝来。