金光明最勝王経 巻第一~十(国分寺経)
こんこうみょうさいしょうおうきょう かんだい1~10(こくぶんじきょう)
概要
『金光明最勝王経』は、四天王をはじめとする諸天善神による国家鎮護の教説を含んだ経典で、10巻から成る。
天平13年(741)2月14日、聖武天皇は詔をくだし、国ごとに国分寺と国分尼寺を建立することを命じた。そしてこの時、国分寺の塔に金字の『金光明最勝王経』を安置することも定められた。国分寺は正しくは「金光明四天王護国之寺」といい、『金光明最勝王経』信仰に基づき、四天王による国家鎮護を期待する国立寺院であった。金字の『金光明最勝王経』は、仏教による鎮護国家のシンボルとして制作された至高の経巻である。なお十巻のうち巻第六に、四天王による国家鎮護が説かれている。
正倉院文書によれば、金字の経典を書写するために官立の「写金字経所」が設けられ、天平18年(746)10月には、71部710巻の紫紙金字金光明最勝王経が完成した。
この金字の『金光明最勝王経』について、聖武天皇の詔には金字とだけあり、料紙の色についての指定はない。しかし天平18年(746)の「写金字経所案」をみれば、能登忍人の項に「造紫紙」とあり、これが紫紙金字の『金光明最勝王経』であったことがわかる。
本巻はもと備後国の国分寺に安置されていたと伝え、10巻を完存する。瑩生が猪牙で磨いた金字は今も燦然たる光を放って紫紙に映え、天平写経の白眉というにふさわしい香気と品格をたたえている 。
奈良国立博物館の名宝─一世紀の軌跡. 奈良国立博物館, 1997, pp.300-301, no.104.