薬罐と茶道具のある静物
やかんとちゃどうぐのあるせいぶつ
概要
身近な品々によって演じられる机上のドラマともいえる萬の静物画は、土沢時代に打ち込んだ主題の一つであった。本作品はその研究のもっとも豊かな成果を得たものといえる。 第5回院展に出品されたこの絵について、同世代の画家である山脇信徳は次のような評を寄せた。「・・・又正面図の薬缶に平面な蓋がのっかって今にも辷り落ち相なのも頗る真面目なおかしみである。(中略)こゝに新しき静物画の一種が生れた事をよろこぶ。」
山脇のいう「真面目なおかしみ」は、萬の多くの作品に当てはまる要素といえるだろう。本図においてもキュビスムを消化した多視点からの俯瞰構図や色遣いのなかに、ゆがみを強調した形態やユーモラスな運動感が組み入れられ、これまでの理知的な静物画とは一線を画した「新しき静物画」として異彩を放っている。