善きサマリア人
概要
鬱蒼とした森に光が射し、荷を積んだ一頭のラクダを照らし出す。ラクダの足元に描かれるのは、身ぐるみ剥がれ横たわる男と、彼をのぞき込むもう一人の男。周囲には植物が過剰なまでに繁茂し、茂みから生き物が顔をのぞかせている。
1861年、本作は「キリスト教徒を救うアブド・アルカーディル」と題されサロンに出品された。アブド・アルカーディルは、かつて抗仏運動を展開したアラブの指導者。1860年のシリア内戦時にキリスト教徒を保護した一件はフランスで大きく報道され、彼は一躍時の人となる。タイトルこそ同時代的だが、本作は発表当時から隣人愛を説くキリスト教の主題、すなわち「善きサマリア人のたとえ」を描いた作品として受容された。
作者ブレスダンはフランスに生まれ、独学で版画を習得。作品の幻想性に加え、その自由奔放な生きざまが多くの文学者を魅了した。本作は、画家の代表作にして最大級のサイズを誇るリトグラフ。細緻でエキゾチックな動植物の描写には、同時代書籍の挿絵等が参照されている。