臨時全国宝物調査関係資料
りんじぜんこくほうもつちょうさかんけいしりょう
概要
本件は、明治21年(1888)に政府が宮内省に臨時全国宝物取調局を設置したことに前後して行われた近畿(畿内)宝物取調をはじめとする取調局が実施した宝物調査事業、および明治30年に同局廃止後帝国博物館(現・東京国立博物館)に事務が移管され、同33年まで継続された宝物鑑査事業に関係する資料群で、宝物目録や宝物台帳を中心とする簿冊類、近畿(畿内)宝物調査に同行した小川一真撮影を主とする写真ガラス原板および紙焼付写真から構成される。
簿冊類381点のなかで大半を占める「宝物目録」186点は、取調局が府県郡町村を通じて各社寺・個人所有の宝物の目録提出を求め府県等がとりまとめたものである。「精細簿」、「参攷簿」111点は、現地における宝物鑑査の結果を清書した調書の台帳で、調査により評価した等級別に、名称、員数、材質、法量、作者、所有者が記録される。「宝物鑑査願書」12点は宝物を所有する社寺や個人から取調局または帝国博物館に提出された宝物鑑査の申請書である。
写真ガラス原板1,484点は、明治21年から明治22年にかけて2度にわたり実施された近畿(畿内)宝物取調に同行した玉潤館の小川一真撮影になる四切サイズのゼラチン乾板が大半を占める。小川は多くの宝物を屋内で撮影したが、自然光が十分に取り入れられない場合には閃光を発するマグネシウムランプを使用するなど最新の技術を採用した。
紙焼付写真3,494点は、府県、種別、等級別にまとめられた絹表紙画帖31冊(976点)、革貼表紙画帖3冊(132点)と、未綴の台紙付写真2,386点から構成され、プラチノタイプが3,476点と大半を占める。写真は、同一被写体に対し複数の構図を用い、特に彫刻では正面のみならず斜側面、側面など、記録性を重視したもので、以後の文化財写真の規範となった。また、写真の一部は『l國華』・『真美大観』等の美術書の図版に使用され、日本美術の普及に大きく貢献した。
本資料群は明治30年の臨時全国宝物取調局廃止にともない帝国博物館に移管された。取調局設置を契機に展開した宝物調査の実態を知ることができ、今日へと続く文化財保護行政の基礎が構築された過程等を理解する上で学術的価値が高いものである。