信楽
概要
須田の作品は、果肉の分厚い果物のように、芯のありかがすごくわかりにくい。あるはずのそこへ到達するために、黒い闇の地帯を手さぐりでどこまですすめばいいのか、自己の感受性の磁石が狂っていてはしないかという不安を必ず見る人に抱かせてしまう独特の雰囲気を発散している。
彼の作品を「幽玄」であると評する人がままあるのも、それが日本的、あるいは東洋的な精神性にみちているかどうかはまずおいて、この「芯」をいまひとつつかみきれない、またはつかもうとしてはぐらかされるもどかしさに起因するといってよい。
そういった特色をもつ彼の絵画のうちで、この「信楽」のような風景画は比較的親しみやすいといえようか。技法上の苦心の有無にかかわらず、ここにはみなれた「風景画」があるとだれもが思えるからである。異様なものはなにもない、と。
しかし、色彩に敏感な人、あるいは須田の画の骨法に通じた人なら「信楽」の全体を支配する色としての赤にそのうち気づくにいたる。
黒とならんで須田作品のあらゆる場所に顔をだして、炎と血の原始的な力をふるう赤色。
潜熱のように厚い黒の空間を伝わってきて表層にでた、ほんの一瞬燃えあがる幻の色であるそれこそ、須田国太郎という精神の球体の「芯」の色かもしれない。(東俊郎)