五尊懸仏
ごそんかけぼとけ
概要
覆輪(ふくりん)をめぐらした鏡板上に五尊(ごそん)の尊像を表した懸仏(かけぼとけ)。中尊を除き台座を欠失するのが惜しまれるが、火焔光背(かえんこうはい)はほぼ遺っており、当初の状態がある程度把握できる点は幸いである。尊像は、中尊が施無畏(せむい)・与願(よがん)の印を示す釈迦如来(しゃかにょらい)、以下右上から時計回りに十一面観音(じゅういちめんかんのん)、定印(じょういん)の阿弥陀如来(あみだにょらい)、僧形(そうぎょう)の地蔵菩薩(じぞうぼさつ)、胸前に経巻を持する文殊菩薩(もんじゅぼさつ)を表すと考えられる。現在こうした尊像構成を示す懸仏は他に例がないが、釈迦、十一面、地蔵、文殊の四尊は春日社(かすがしゃ)の本地仏(ほんじぶつ)と一致し、一宮に当たる釈迦を中尊とする点からも、本品が春日四所及び若宮を表した類例のない懸仏であることが推測される。
古玩逍遥 服部和彦氏寄贈 仏教工芸. 奈良国立博物館, 2007, p.23, no.8.